エプソン販売株式会社
エプソン販売株式会社様は、変化する市場環境に対応するため、セールスイネーブルメントの推進に注力しています。
特に間接販売が中心となるビジネスモデルにおいて、営業担当者一人ひとりのスキル向上と組織全体の底上げを図るべく、株式会社Xpotentialの支援のもと、新たな取り組みを進めてきました。
今回は、エプソン販売株式会社 ビジネス営業企画部 部長の岡田寛様、九州営業部で本プロジェクトを推進し、現在はヘルスケアソリューション営業部 部長を務める阿江隆之様にその具体的なプロセスと成果を伺いました。
──セールスイネーブルメントを推進されることになった背景や、当時の課題についてお聞かせいただけますでしょうか。
岡田 寛氏:エプソン販売は、コンシューマー向けのカラリオシリーズを起点として、着実に事業を拡大してまいりました。しかし、2000年代以降は商品のコモディティ化が進行し、単に高品質な商品を市場に投入するだけでは売上拡大が難しくなってきました。特に、2014年に参入した複合機市場では、競合他社との差別化が困難となり、お客様に真に価値ある提案を行うため、営業手法の抜本的な見直しが急務となっていました。
──市場環境の変化が大きかったのですね。
岡田 寛氏:はい。当社の商品は、販売店を主軸として展開しています。お客様に価値を届けるには、まず私たち営業自身が、高度なスキルとノウハウを持ち、販売店にとって信頼されるパートナーである必要があります。従来の販売スタイルでは限界があり、営業担当者一人ひとりが直販的な視点を持ち、セールスクラウドを活用して営業プロセスの精度と実行力を高める必要性がありました。
阿江 隆之氏:これまでは、「この商品がこのマーケットに対してどのような価値を提供できるか」といった内容を、プロモーション担当が一方的に策定し、あとは販売店に展開を委ねるという傾向がありました。しかし、そうしたアプローチでは十分な成果が得られなくなり、販売店の先にいるお客様のニーズを深く理解したうえで、付加価値のある提案を行うという、より高度な営業力が求められるようになってきました。
──販売店営業でありながら、より高度な提案力が求められるようになった、ということですね。
阿江 隆之氏:まさにそのとおりです。そのためには、企画部門との連携を強化し、営業担当者一人ひとりのスキル向上を支援する体制を整える必要があると強く感じていました。
────セールスイネーブルメントの考え方を自社に取り入れようとされた背景と、最初に直面した課題についてお聞かせください。
岡田 寛氏:以前から「ザ・モデル」やセールスイネーブルメントに関する書籍を通じて知見を深めており、山下様(Xpotential)が登壇されたウェビナーも拝見していました。そうした中で、スキルマップを作成し、セールスイネーブルメントの考え方を自社に取り入れるべきだと考えるようになったのです。ただ、実際に着手しようとした際、セールスフォースの運用や理解の仕方に営業担当者ごとのばらつきがあり、円滑な展開に支障が生じていました。
──解釈がバラバラだったというのは、具体的にどのような状況だったのでしょうか。
岡田 寛氏:例えば、「フェーズ」という概念についても、それぞれの行動基準や評価軸が統一されていない状況でした。また、上司による主観的な評価に依存する場面も多く、営業力の強みや課題を客観的に言語化できていないという課題もありました。そのため、まずは優秀な営業担当者を抽出し、各フェーズにおける具体的な行動や活用ツールを明確化するところから始めました。
──まさに、セールスイネーブルメントの第一歩ですね。その際、エプソン販売様ならではの課題や、特に印象に残っていることはありますか?
阿江 隆之氏:今回の取り組みで最も難しかった点は、販売店を意識しながらも、従来とは異なるアプローチで直接的に案件を創出していく必要があったことです。商品やソリューションに関する理解はある程度進んでいたものの、経営視点での価値訴求や、プロフィットセリングといった観点でのアプローチには課題がありました。そうした点を言語化して明確にすることが、プロジェクトにおける重要なポイントであったと考えています。
──スキルマップを作成された後、現場への展開でどのような課題がありましたか?
岡田 寛氏:スキルマップを策定し、「これがエプソン販売における理想的な営業像である」として現場に提示したのですが、現場からは「実態とかけ離れている」といった反応が返ってきました。企画部門としては「現場の声を反映したつもり」であっても、実際の現場が抱えているのはより切実な課題でした。当時寄せられた最も率直な声は、「商談の数が足りていないので、商談自体を創出したい。しかも販売店経由で」といったものでした。
阿江 隆之氏:この経験を通じて、各エリアの営業担当者が抱える課題は一律ではなく、画一的なアプローチでは効果が出ないことが明確になりました。こうした状況を踏まえ、当時の経営層とも議論を重ねた結果、まずは私が所属する九州営業部に焦点を当て、現場とともにプログラムを構築していく方針に切り替えることとなりました。
──そこでXpotential様が深く関わられたのですね。
岡田 寛氏:はい。Xpotentialの山下様には、非常に驚かされました。まるで当社の一員であるかのように、商品やビジネスモデルへの理解を深めた上で、「この価値は、こうしたお客様に届けるべきだ」といったマインドマップまで作成してくださいました。一般的な研修会社の場合、現場からは「自社のことを十分に理解していない」という不満が出がちですが、今回はそのような声は一切ありませんでした。極めて顧客に寄り添った支援体制だと感じました。
阿江 隆之氏:私も、Xpotentialの皆様の現場への入り込み方には深く感銘を受けました。単なる研修の枠にとどまらず、実務に即した支援を行っていただいたという印象です。たとえば、販売店のプロファイル分析や、そこから案件創出につなげる具体的な方法論についても、仮説を立てながら一緒に検討していただきました。「現場の主体性」を尊重し、共にプログラムを作り上げていくという姿勢が、私たちの課題解決に大きく貢献したと考えています。
──具体的にどのような成果が出たのでしょうか。
阿江 隆之氏:はい。本プロジェクトの実施により、九州営業部では商談件数がプロジェクト開始前の前期と比較して236%にまで増加しました。また、受注件数についても140%の成長を達成しており、取り組みの成果が明確に数値として表れています。
──商談件数、受注件数ともに大幅に増加したとのことですが、それ以外にも変化はありましたか?
岡田 寛氏:はい。営業担当者のスキルレベルを定量的に評価するアセスメントにおいても、2024年9月時点で平均スコアが2.5であったものが、2025年3月には3.1へと0.6ポイント向上しました。これは、営業成果の向上だけでなく、担当者自身のスキルが確実に高まっていることを示すものです。
阿江 隆之氏:販売店との関係性にも顕著な変化がありました。従来は、商品の仕様や特徴を一方的に伝えるにとどまっていましたが、本取り組みを通じて、付加価値提案や販売店の組織構造、経営戦略に関する踏み込んだ対話が可能になりました。定例会においても、従来は触れられなかった領域への質問や分析ができるメンバーが増え、対話の質が向上しています。
──販売店との関係性が、より戦略的なものへと進化したのですね。
阿江 隆之氏:はい。従来は「販売店にお任せする」というスタンスが主流でしたが、現在では営業担当者が主体的に関与し、販売店のビジネスそのものを理解しようとする姿勢が醸成されています。その結果として、特定業種や販売店においては、私たちの提案が販売店内で横展開される、新たな商談創出につながるといった好循環が生まれつつあります。
岡田 寛氏:セールスフォースの活用に関しても変化が見られました。これまでは、特にハイパフォーマーの営業担当者は比較的早期に順応していましたが、一部では過去の成功体験が新しいスタイルへの適応を妨げる要因となっていました。今回の取り組みを通じて、商品ポートフォリオの中でも、法人向けの複合機・プリンター「エプソンのスマートチャージ」以外の提案に対する積極性も高まり、課長層のコーチングの質も向上したと感じています。具体的には、メンバーのスキルレベルに応じた的確なアドバイスが行えるようになり、マネージャー自身も「自分たちも成長している」という手応えを得ている状況です。
──今後、エプソン販売様としてセールスイネーブルメント領域でチャレンジしていきたいことについてお聞かせください。
岡田 寛氏:今回の九州営業部での取り組みは、個別の営業部隊に対して企画部門がどのように寄り添い、共に成果を上げていくかという点で、有効な進め方を確信できた非常に有意義な経験でした。しかしながら、私たちのミッションは、全国の営業担当者全体の平均スキルを底上げし、70点以上の水準に引き上げていくことにあります。その観点で言えば、今後の課題は、九州営業部で得られた成功事例をいかにして全国に展開し、数百名の営業担当者全員に浸透させていけるか、という点にあります。
──全国展開となると、また新たな課題が生じそうですね。
岡田 寛氏:はい。対象の規模が拡大することによって、これまでとは異なるアプローチが求められる可能性もあります。各営業組織やチームのニーズは多様であるため、本社の企画部門としては、「推進を担う専門組織」「標準化されたイネーブルメントプログラム」「データ分析基盤」の三要素を整備することが重要であると考えています。セールスクラウドによる活動データと、今回のような営業現場の実行データを統合的に分析し、「どのような施策が成果につながるか」を可視化することで、本社主導による段階的なスケールを図っていきたいと考えています。
──エプソン販売様の現場チームとご一緒される中で、特に印象的だった点を教えてください。
山下 貴宏氏:今回のプロジェクトにおいて、私たちが特に感謝しているのは、現場の皆様の高い主体性です。企画部門がコンテンツを作成する際、マネージャーの方々が「自分たちが活用するならどうあるべきか」という観点から、積極的にフィードバックをくださったことが非常に印象的でした。与えられたものをただ受け取るのではなく、「自分たちのもの」として内容を咀嚼し、戦略的な視点からレビューを行っていただいたからこそ、現場で活用できる実践的なプログラムが生まれたのだと感じています。
──それは、現場と企画、そして経営がうまく繋がった事例と言えそうですね。
山下 貴宏氏:おっしゃるとおりです。イネーブルメントは、現場の声と本社の意図、さらにはお客様のニーズを結ぶ「媒介」として機能するものです。この媒介がうまく機能しない場合、現場と本社の認識にずれが生じ、結果として多くの機会損失を招いてしまいます。今回のエプソン販売様の取り組みにおいては、この「媒介」としてのイネーブルメントが有効に機能したことで、大きな成果に結びついたのだと考えております。すでに本社主導での成果創出が実証された今、今後の全国展開においても非常に注目しております。
──最後に、これからセールスイネーブルメントに取り組む他社のリーダーの方々へ、メッセージをいただけますでしょうか。
岡田 寛氏:私自身、当初はノウハウもなく、試行錯誤の連続でしたが、Xpotentialの山下様およびそのチームとの出会いに大きく助けられました。これまで複数の研修会社と関わってきましたが、Xpotentialの支援は、当社の価値と現場の現状を正しく理解した上で、適切に課題に働きかけてくれるという点で、明らかに他社と一線を画していました。営業力強化に課題を感じている企業のリーダーの方には、ぜひXpotential様にご相談いただくことをお勧めいたします。
阿江 隆之氏:現場視点で申し上げますと、マネージャー自身がいかに主体的にプロセスへ関与するかが、成果に直結すると感じています。Xpotentialの皆様との取り組みを通じて、課長クラスのマネージャーがスキルマップというフレームを正しく理解し、メンバーのスキルレベルに応じた具体的なコーチングを実施できるようになりました。従来は「答えは相手の中にある」といった抽象的な前提で指導することが多かったのですが、スキルマップを活用することで、より実践的かつ効果的な指導が可能になりました。私自身にとっても、非常に有意義な学びの機会となりました。